独特の視点で現代を切り取り、緻密な物語を描くことに定評のある松井周が、いよいよ青年団リンクとして「サンプル」を立ち上げます。
その第一弾となる『シフト』は、近代以前の慣習と現代の消費社会がグロテスクに融合した村を舞台に、人間がどのように環境に適応していくかを描く意欲作です。
公演にあたり
独特の視点で現代を切り取り緻密な物語を描くことに定評のある松井周が、いよいよ青年団リンク サンプルを立ち上げます。
平田オリザの提唱する「現代口語演劇」が定着した現在、若手演出家の手によって様々な試みが為されてきましたが、私達たちはそのスタイルをなぞるだけでは前に進むことは出来ません。
サンプルでは、松井の個人的な問題意識を核に、「現代口語演劇」にこだわらないスタイルを模索しようとしています。
『シフト』について
「私たちはもはや主体的に生きることは難しい」
飛躍していうと、現代の日本人は、過去や未来やあらゆるモノや場所に希望を見いだすことが出来ずに、フェティッシュな欲望だけでその場をうろうろするゾンビのようなものではないかと私は想像するのです。 シフトは私の中では、ゾンビの移動を意味します。 物理的な移動のみではなく、ゾンビがゾンビのままで新しい共同体を作る様、その欲望の移動する様を描きたいと思います。
『シフト』ものがたり
山と川に囲まれた村。
田舎でありながらもダムと大型スーパーが出来たその村には、古くからの因習が残っている。
現代と近代以前が奇妙に調和している。
ある家に、都会から男がやってくる。
娘と結婚するためである。
村では今、外からの血が必要とされている。
過去上演作品劇評
青年団若手自主企画Vol.17『通過』(松井周処女作) 2004年5月 於 こまばアゴラ劇場
崖下のゴミに埋もれかかっている一軒家。この芝居は兄が家を乗っ取り、妹夫婦も破綻させ、カルト風の共同体をでっちあげて君臨支配するまでの推移を実に説得的に描きだす。人間を動くゴミだときめてしまった男には、だれも太刀打ちできない。人間の値打ちの水位がどこまで下がるのかを見極める作者のモチーフの強度を体現した俳優が緊張感みなぎる舞台をつくった。
江森盛夫(評論家) -「シアターアーツ」 2004秋号より抜粋-
文学座+青年団自主企画交流シリーズ第一弾『地下室』 2006年5月 於 アトリエ春風舎
<静かに笑いを誘う、矛盾だらけの理想郷>
現代社会から離れ、“より人間らしい”生活を送るため理想的なコミューンを目指すある団体。一見平穏に見えるのだが……。物語がすすむにつれ、人間関係の裏側が見えはじめ、高尚な理念が剥がれ落ち、その下から多くの矛盾があらわになる。
この世界観をエンターテイメントに昇華出来る手腕は相当のもの。極端に突きつめた矛盾は妙な可笑しさがあるものです。
園田喬 -「演劇ぶっく」 2006年8月号より抜粋-
「サンプル」について
これには大きく二つの意味があります。
一つは「紛い物」。
動物を観察するように、一旦人間を、感情や人間性や内面から引き離してみようという試みです。言語活動も人間の「言い訳」のように捉えながら、物語を描いていきたいと思います。
もう一つは「試作品」。
作品を窮屈なわかりやすい形に閉じこめるのではなく、「紛い物を作る」実験・実践をしていく場です。日々柔軟に変化していく「試作品」=サンプルを理想としています。
松井 周 (劇作家・演出家・俳優)
1996年、俳優として劇団青年団に入団。
2003年、処女作『通過』が未上演にして第9回日本劇作家協会新人戯曲賞入賞。
同作を2004年5月に上演。環境に支配されていく人間の不確かさを大胆な舞台展開で描き、好評を博す。
続いて2005年6月に上演した二作目『ワールドプレミア』では、人間の記憶の曖昧さ、その記憶の蓄積で形成される個の危うさを緻密な物語構造で描き、第11回日本劇作家協会新人戯曲賞入賞。