このたび、青年団リンク キュイ『ダイレクト/ネグレクト』を来年度8月に延期することになりました。苦渋の決断でした。感染リスクの問題や経済的な問題など、様々な理由が挙げられますが、「旗揚げ10周年記念に向けて、気合いが入りまくっていた去年の私が、過去最大級の長編を発表しようと目論んでいた」のがいちばんの大問題でした。タイムスリップして、去年の私を羽交い締めにしたいです。この状況で、目論みどおりの公演を行えるとはとても思えませんでした。演出の橋本さん、山内さんにまず相談し、その後にキャストのみなさま、スタッフのみなさまと慎重に話し合いを重ねましたが、最終的に延期の方向で一致しました。来年度8月までにコロナ禍が完全に収まっているとは捉えていませんが、戯曲を考え直し、座組を再編する充分な時間は残されています。首を長くして待ったかいがあった、と言ってもらえる公演になるよう、全力を尽くします。あと少しだけ、お待ちください。
さて、私にはもうひとつ、情報公開前に、ひっそりと延期にしていた新作公演がありました。それが今回発表する『まだなにもはなしていないのに』です。演出の得地さんに戯曲をみせ、使いたい劇場を決め、スタッフにオファーを始めた段階で、コロナ禍が私たちを襲いました。2020年3月のことでした。緊急事態宣言が発出される直前、私のほうから、企画を進めるのはもうやめようと提案し、得地さんも同意し、手元にはだれも声に出して読んでいない戯曲だけが残されました。このような形ではありますが、意外と早いタイミングで、危うく永久の眠りにつくところだった新作が世に出せることになって、感謝の気持ちでいっぱいです。この判断を受け入れてくださった平田オリザさま、こまばアゴラ劇場のみなさま、本当にありがとうございます。
なにがあっても部屋から出ないひきこもりの話なのですが、家にひきこもることがある意味で当たり前となった今、この作品の意味はすっかり変わってしまいました。去年から何故か、こんな内容の戯曲を書いていたというシュールな事実と共に、お楽しみください。
綾門優季
演出の得地です。
ピンチヒッターでやって来ましたが、せっかくなので面白いものをつくろうと思います。綾門くんとは何度もやってるのですが、戯曲の印象はエッジがはっきりしているようで、近付くといつの間にか構造を変える迷宮のようです。知性と蛮勇を持って、綾門くんという言葉使いがつくった、このダンジョンに挑みます。冒険にはパーティの仲間がつきものです。ぜひ、一緒に冒険しに来てくださるとうれしいです。よろしくお願いします。
得地弘基
青年団リンク キュイ
専属の俳優を持たない、プロデュース・ユニットとして活動中。劇作を綾門優季が担当し、外部の演出家とタッグを組みながら創作するスタイルを基本としている。戯曲は「震災、テロ、無差別殺人など、突発的な天災・人災を主なモチーフとすること」を特徴とする、独自の世界観を構築している。2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。2015年、『不眠普及』で第3回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。