「青年団と平田オリザの演劇」展開催にあたって
青年団は、たしかに90年代を走り続けてきました。
例えば、それは、95年、『東京ノート』での岸田賞受賞に際して、
私が次作『火宅か修羅か』のチラシの裏に書いた次のような文章 まさにそのままに、
「青年団は、アゴラ劇場を拠点として、世紀末の日本を、最前衛の位置にたって駆け抜けていきたいと思います。そのスピードは、時 にもどかしいほどにゆっくりとしたものに見えるかも知れませんが、着実な、そして結果的には最速の道程であったといわれることに なるでしょう」
その後、劇団の発展のスピードは加速度を増し、私たちは、自分たちでも予想もしなかった地点へと到達しつつあります。
フランス語版『東京ノート』のフランス国立演劇センター長期巡演。私の桜美林大学文学部助教授への就任と、日本におけるまった く新しい演劇教育プログラムの開始。昨年から始まった『東京ノート』のワールドツアー。2002年からの中学校国語教科書への青年団 ワークショップの掲載。どれ一つをとっても、これまでの日本の劇団が経験したことのない状況です。
しかし、私たちは、これが最終到達地点だとは考えていません。私たちは前人未踏の荒野に立ちながら、いまも慎重に測量を続け、 この荒野の地図を作りながら進んでいます。時に歩をゆるめ、膝をつき、時にはその歩みをいらだたしげに早めながら、たしかに、私 たちは冒険の旅を続けています。
ですから、この展示会は、私たちがこれまでに行ってきた数々の冒険の、単なる記録の集積ではありません。この展示会は、今後、 この荒野を通り抜けていくすべての冒険者のための地図と羅針盤となるべく企図されたものです。
もちろん新しく青年団に興味を持っていただいた皆さんには、過去の青年団の成長の軌跡を入念にご覧いただきたいと願っていま す。また、青年団が日本全国で、あるいは海外で、どんな実験と冒険を行ってきたかを、首都圏の演劇ファンの方に知っていただくこ とも、この展示会の大きな眼目の一つです。
できうるならば、多くの皆さんに、この類い希なる冒険の、監視者に、あるいは同行者に、なっていただければ幸いです。
2000年 初春 平田オリザ
この「青年団と平田オリザの演劇」展は、
6つのキーワード~
「'82~'88」
「現代口語演劇」
「旅公演」
「東京ノート」
「海外」
「ワークショッ プ・教育」
~に よって、90年代演劇という荒野を駆け抜け、そして今もなお21世紀という新たな荒野へ向けて疾走を続け る「青年団」の“冒険”の軌跡をたどる試みです。
会場には、平田オリザの著作や、劇評などからの断片的な抜粋や、舞台や稽古風景、その時々の劇団員たちの姿をとらえた数々の写 真、そしてちらし・ポスターなどの上演資料が、劇団員たちの手によって、コラージュされています。モザイク状に散りばめられたこ れらの言葉と写真の中から、あなたの琴線に触れる何かがあれば、それが現在の「青年団」と皆さんの接点です。どうか、一人ひとり の、「青年団への入り口」をお探しください。
また、この展示をご覧になり、「青年団」の演劇に興味を持たれた皆さんに、演劇という荒野を進む冒険者のための“地図と羅針 盤”、レファランスを準備しました。
●1F閲覧室では平田オリザの著書、戯曲集の他、青年団の上演台本、ちらしや当日パンフレット集など、この機会でなければ、なかなかご覧いただけない資料を公開しております。
●6号館 3FのAVブース(開室時間 月~金 13:30~ 16:00、土・日は閉室)では、上演ビデオがご覧になれます。
期間中、若干の展示替えなども予定しております。詳細は、早稲田大学演劇博物館までお問い合わせください。