『ヤルタ会談』と『忠臣蔵・OL編』は2006年2月の埼玉県富士見市での公演を経て、3月には北米ツアー公演へと出発します。これまでにも北米やヨーロッパ、香港、韓国、オーストラリアなどでの、海外公演で成功をおさめてきた青年団ですが、代表作『東京ノート』以外の作品を、劇団の公演という形で、海外で上演するのは初の試みとなります。
北米ではオクラホマ、ヒューストン、ビクトリア(カナダ)、イリノイ州アーバナ、ポートランド、ニューヨークなどで約1ヶ月間に渡るツアー公演を行います。先立つ富士見公演は北米公演版(日本語上演・英語字幕付き・装置も一新)を上演いたしますので、どうぞお見逃しなく。
『ヤルタ会談』
物語の紹介
第二次大戦末期にソ連の保養地・ヤルタに集結した英・米・ソの3人の首脳たち。
チャーチル、ルーズベルト、スターリンの3人が、戦後のヨーロッパでの主導権や、イスラエルの設立、そして日本との長引く戦いをめぐって、それぞれの思惑をぶつけたり、お茶をにごしたり、お菓子を食べ続けたりしながら、具体的なことは何も決まらないまま会談は進んでいきます。
世界史上の重大秘密会談を描いたブラックユーモア満載のコメディです。
作者コメント
『この作品は、当初は戯曲ではなく、柳家花緑師匠のために新作落語台本として書き下ろされました。
この落語は、2002年10月、上野の鈴本演芸場で高座にかけられました。
私が観た回では、客席から「話が難しすぎるよ!」とヤジが飛んでいて、私はとても申し訳ない気持ちになったものでした。あとで花緑さんに聞いたら、落語でヤジが飛ぶというのは、あまり聞いたことがないそうで、これはこれで、すごいことだと思った次第です。
演劇版は、落語台本から三割ほどを書き変えたり書き足したりして、現在の形に至っています。』
出演
木崎友紀子 兵藤公美 高橋 縁 安田まり子 鈴木智香子 田原礼子 井上三奈子
『忠臣蔵・OL編』
物語の紹介
もしも赤穂浪士がOLだったなら!?
昼下がりの社員食堂に集まったOLたち。城にはなにやらただならぬ知らせが届いた様子。
どうやら藩主が吉良上野之介に切りつけて、即日切腹、突然お家とりつぶしが決定し、次にとるべき行動に悩む彼女たちは、とにかく議論を始めるが・・・。
目的が曖昧なままに議論が進み、意志統一されていく過程から、集団の中に生きる日本人の姿を描いた『忠臣蔵』シリーズ。好評のOL編をご覧ください。
作者コメント
この『忠臣蔵』という戯曲は、1999年の春に、演出家宮城聰さんの要請によって書き下ろしたものです。 この年、静岡で行われたシアターオリンピックスの日本側参加作品の一つとして、清水港を舞台に野外劇が行われることになり、その野外劇の台本というか、構成の核となるシナリオのようなものとして、書かれた作品です。実際の舞台は、公募による100人のコロスが参加する華やかなものになったそうです。実は私は、そのとき利賀フェスティバルのディレクターをしていて、本番は観ていないのでした。
さらに、2001年には、同じ静岡県で、宮城聰さんが劇場用に演出を変えて上演。続いて同年、新国立劇場で開催されたBeSeTo演劇祭でも同演目が上演されました。こちらは両方とも観ることができました。
私自身は、この作品を、さらに別の形で上演しようと考え、試行錯誤を繰り返してきました。その結果、今回上演する『OL編』や『修学旅行編』などを作り、上演してきました。最近では、全国の様々な劇団が、「高校野球編」とか、「劇団編」「保育士編」といった『忠臣蔵』を上演しているようです。
(平田オリザ/2005年『ヤルタ会談』『忠臣蔵・OL編』高松・長崎・札幌公演パンフレットより)
出演
松田弘子 高橋縁 島田曜蔵
私たちは、この二本立て作品を持って、三月に北米公演を予定しています。
南部のオクラホマを皮切りに、東に西にとジグザグに進みながら、ニューヨークを目指す一ヶ月近い長い旅です。
オクラホマは、ブッシュ政権を支える南部諸州の中でも、もっとも保守的な地域です。空軍基地があり、街には、イラクに派兵された兵士の無事を祈る黄色い旗があふれているそうです。そんな街を出発点に、最後は、ニューヨークの国連ビルの目の前にある劇場で、私たちはこの『ヤルタ会談』『忠臣蔵・OL編』を上演します。いったい、どうなることでしょう。楽しみというよりは、やはり少し緊張します。
落語の初演から3年、いよいよ『ヤルタ会談』の当事者の国に行くわけです。「話が難しすぎる」とは、もう言われることもないでしょう。
本物の戦争が始まってしまって、日本もまた、当事者になってしまいました。いまの日本が置かれている状況のすべては、この『ヤルタ会談』に書かれている事柄から始まっています。
すべてのお客様に、二つの「会議」の形を堪能していただければ幸いです。
平田オリザ